第11回NPT再検討会議第2回準備委員会に合わせて、平和首長会議ユースをスイス・ジュネーブ市に派遣しました。

2024年7月

スイス・ジュネーブ市で開催された第11回NPT再検討会議第2回準備委員会に、学校教育活動の一環として核兵器廃絶の実現に向けて様々な平和活動に取り組む広島の高校生を「平和首長会議ユース」として派遣し、準備委員会のサイドイベントとして開催する平和首長会議ユースフォーラムでの発表や意見交換、会議傍聴や国連関係者への署名の手交、地元の青少年との交流などを通じ、次代の平和活動を担う青少年の育成を図りました。

平和首長会議ユースフォーラム登壇者と

平和首長会議ユースの派遣日程:2024年7月20日(土)~7月28日(日)

7月22日(月)

オコンジョ世界貿易機関(WTO)事務局長との面会

オコンジョ事務局長から、WTOは貿易を通して人々の生活をより良くすることを目標としており、世界を平和で持続可能性な場所にすることや貿易の制度を通じて、気候変動を食い止めることを目標としていると説明を受けました。その後、ユースから核兵器廃絶へのアプローチやジェンダーに関する質問を行い、オコンジョ事務局からWTOのミッションや自身の経験に触れながら丁寧に回答いただきました。

オコンジョ事務局長(後列中央)とユース
第11回NPT再検討会議第2回準備委員会のオープニング傍聴

中満国連事務次長兼軍縮担当上級代表は、開会挨拶で、現在核使用の脅威が高まっており、これまでの核軍縮の努力が水泡に帰すのではないかと失望しているが、核軍縮は一夜で成し得るものではなく、各国が一歩一歩着実に進んでいかなければ実現することが出来ない、今こそ締約国が手を取り合って協力していくことが必要だと呼び掛けました。ユースは、熱心にメモを取りながら演説を傍聴しました。

オープニング傍聴
コラロフ国連軍縮フェローシップ・プログラムコーディネーターとの面会

コラロフコーディネーターから、国連が実施する軍縮の取組や国連軍縮部の役割、軍縮会議の成り立ちとコンセンサスに至るための仕組等について、分かりやすく説明を受けました。また、実際に戦地で使用された爆弾や地雷の破片を見せていただき、ユースは、「戦争が終わって、忘れ去られて眠っている兵器が身近にあるかもしれないという恐怖を感じ、様々な視点で軍縮を行うことの重要性を実感した」と感想を述べました。面会の最後に、コラロフコーディネーターは、「若者が被爆者の思いを次世代につなげることが重要であると感じている。私たちの世代が成し遂げられなかった平和な世界を若い世代の皆さんにぜひ実現してもらいたい」とユースを激励されました。

面会の様子
コラロフ氏(中央)とユース
ユース交流レセプションへの出席

市川軍縮会議日本政府代表部特命全権大使公邸で開催されたレセプションでは、中満国連事務次長、高村外務大臣政務官等の出席の下、平和首長会議ユースのほか、翌日の平和首長会議主催ユースフォーラムで発表を行うナガサキ・ユースやジュネーブ市の学生が招待されました。ユースは、被爆体験記を聞くことが出来るQRコードが入ったカードの配布や、各学校での活動、日本文化の紹介等を通じて、参加した他の若者たちと交流を深めました。

レセプション参加者と交流するユース

7月23日(火)

中満国連事務次長兼軍縮担当上級代表への署名の手交及び面会

松井会長が平和首長会議ユースの活動について紹介した後、ユース代表から中満国連事務次長へ「この署名は、市民の平和を願う心を集めたものです」と約4万4千筆分の「『核兵器禁止条約』の早期締結を求める署名」の目録を手交しました。中満国連事務次長は、次代を担うユースに対し、「意見が異なる人との対話こそが大切であり、世界で起きていることに関心を持ち、様々な考えを聞き、対話を重ねることで、平和を構築する輪を広げてほしい」と激励されました。

面会の様子
中満上級代表(後列中央)とユース
ドキュメンタリー映画「Paper Lanterns」上映会への出席

第11回NPT再検討会議第2回準備委員会のサイドイベントとして、国連軍縮研究所と軍縮会議日本政府代表部の共催で開催された「Paper Lanterns」上映会に出席しました。映画を鑑賞したユースからは、「改めて、被爆の実相を知り、伝えていくことは、絶対に戦争をしてはいけないというメッセージを力強く伝えるために必要なものであると感じた」、「人々が国を超えて手を取り合い、歴史を共有することで、未来を変えることができるのではないか」という感想が聞かれました。

上映会の様子
第11回NPT再検討会議第2回準備委員会NGOセッションの傍聴

平和首長会議や被爆者団体を始めとする世界各地で活動する団体が、各国政府関係者に市民社会を代表して声を届けるNGOセッションを傍聴しました。松井会長は、鈴木副会長と共に平和首長会議の代表として行ったスピーチで、広島・長崎の被爆体験は核兵器廃絶の根拠となるべきものであり、我々は、核兵器は「断じて使ってはいけない兵器」であると訴え続けてきたにもかかわらず、現下の国際情勢では、核兵器が「条件次第で使える兵器」へと評価が変わっていることを指摘した上で、広島平和記念資料館の訪問者数が過去最多となっていることに触れ、為政者に対し、平和を愛する市民社会の声を踏まえ、核戦力強化や軍拡競争を肯定的に捉えることを直ちに見直し、対話による外交努力をもって、核軍縮・不拡散措置を確実に進展させるよう訴えました。

スピーチを傍聴するユース
平和首長会議ユースフォーラムの開催

第11回NPT再検討会議第2回準備委員会のサイドイベントとして開催した本フォーラムでは、平和首長会議ユースや世界各地で平和活動に取組む若者8組が、取組発表を行うとともに、平和活動を行う上での課題等についてディスカッションを行いました。参加したユースからは、「様々な立場で多様な活動を行う同世代の仲間を知る良い機会になった」、「従来の枠組みに捉われることなく、様々な視点から核兵器廃絶を働きかける重要性を改めて認識した」との感想がありました。フォーラムの最後には、中満国連事務次長から、「これからの未来はユースの未来であり、未来を良くするための意思決定にユースが常に参加すべきである。ここにいる皆さんが引き続き平和活動に携わり、活動を発展させていってほしい」と激励の言葉をいただきました。

取組発表を行うユース
取組発表を行うユース
取組発表を行うユース
取組発表を行うユース
ディスカッションの様子
閉会挨拶
ディスカッションの様子
登壇者と

7月24日(水)

世界貿易機関(WTO)訪問

WTO本部を訪問し、平和構築と深く結びついているWTOの概要について学んだ後、同機関が実施するプログラムの中で、特に若者に焦点を当てた「Trade for Peace Future Leaders」という取組についてレクチャーを受けました。同プログラムは、WTOの加盟国の中で、若者が十分な教育が受けられず、その国の未来に関わる平和構築に若者が携わっていない状況を変えていくために開始されたものであるという説明を受けたユースは、「日本からも参加出来るポッドキャストやオンラインイベントに参加したい」と今後の活動に向けた意欲を高めました。

レクチャーを受けるユース
WTO職員とユース
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)訪問

UNHCRジュネーブ本部渉外局で難民の支援を行う箱﨑上級ドナー担当官から、同機関の概要や取組について説明を受けました。その後、質疑応答を行い、国際機関で日本人職員として活躍されている同氏からこれまでのキャリアに基づくアドバイスや、仕事を進める上で大切にしている姿勢などについてお話しいただき、ユースにとって今後の活動やキャリア形成について、改めて考える機会となりました。

レクチャーを受けるユース
箱﨑担当官(前列右端)とユース
国際赤十字・赤新月博物館訪問

ICRCで日本人職員として働く、川崎アジア太平洋地域資源調達担当マネージャーに館内を御案内いただきながら、国際人道法と赤十字・赤新月社の成り立ちや、日本の赤十字社の始まりについて学びました。館内を見学したユースからは、「実際にどのような人道的支援を行なわれているか知らなかったため大変勉強になり、平和のために異なるアプローチで働いている人たちのことを改めて知ることができてよかった」と感想が聞かれました。

案内を受けるユース
川崎マネージャー(中央)とユース

7月25日(木)

ジャクリーン・カバッソ広島平和文化センター専門委員との面会

2007年から広島平和文化センターの専門員を務める同氏と面会し、世界の核軍縮に向けた動きや米国内での平和首長会議の取組状況について説明を受けた後、質疑応答を行いました。面会の最後には、長きに渡り平和活動を行ってきた同氏から「ユースの活動は、非常に重要であり、我々との世代交代の時期だと考えている。これからの未来を担っていくユースの皆さんを、我々がサポートしていきたい」と激励の言葉をいただきました。

カバッソ専門委員(中央)とユース
国連欧州本部ガイドツアーへの参加

国連欧州本部の歴史や国連における交渉や合意形成についての説明を受けた後、実際に会議で使用される会議室等や常設原爆展を見学しました。ガイドの方から、常設原爆展について「この展示ができることを誇りに思う。ここは全ての平和への願いの始まりである」と説明を受けたユースは「広島、長崎が核軍縮のフィールドでいかに重要な役割を担っているか改めて実感した。日々の平和活動の中で、広島、長崎の平和への願いを伝えていきたい」と決意を新たにしました。

ガイドを受けるユース
市川軍縮会議日本政府常駐代表との面会

市川軍縮会議日本政府常駐代表は、現在の国際安全保障が非常に厳しい情勢にあることを強調し、今後は、少しでも軍縮を進展させることに注力していかなければならないとの見解を示されました。また、面会に同席したユースに対し、「被爆の実相に関する映像や資料を自分の目で見て心で感じ、それを自分の言葉でアウトプットし、今後の活動の中で、多くの人に伝えていってほしい」と激励されました。

面会の様子
市川大使(前列左橋)とユース
核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)本部訪問

ホグスタ副事務局長から、ICANの始まりやノーベル平和賞受賞までの道のり、これからの活動についての説明を受けるとともに、ICANの若手職員より、自身の経験に基づいたキャリア形成やICANの職員の多様性に関するお話を伺い、「自分の好きな分野を追求していってほしい」とアドバイスを受けました。また、パーク事務局長とも面会し、「広島と長崎の悲劇がもう2度と起こらないように力を合わせましょう」と期待の言葉をいただきました。

面会の様子
ICAN職員とユース

7月26日(金)

市内視察

ジュネーブ大学を訪問し、東アジア研究学科日本語専攻の学生8名による案内により、大学内の視察を行うとともに、自身の平和活動や学生生活の紹介を通じて交流しました。その後、美術・歴史博物館、サン・ピエール大聖堂を視察するとともに、ジュネーブ大学の学生と共に、ジュネーブの古い生活の様子を見ることができる美術館TAVELやレマン湖の大噴水などの名所を視察し、見識を広めました。

ジュネーブ大学学生とユース
大噴水近くイギリス公園の視察

平和首長会議ユースの派遣の感想

  • 今回の事業を通じて、平和活動の多様性を実感しました。国連で活動した4日間、核兵器廃絶を願い、そしてアクションを起こしている人々がいるのだと目にし、大きな刺激を受けました。それと同時に、私には世界にも心強い仲間がいるのだと気づいた瞬間でもありました。世界情勢が複雑に絡み合う今日、枠にとらわれることなく、考え続け、アクションを起こすということがこれから私たちに求められていることだと私は考えます。
  • 今回の派遣を通して、広島に来て直接被爆者の思いを聞いたり、遺物、展示を見たりして、自分の感じたことや意見を持ってほしい、という思いが一層強くなりました。そして、悲惨な内容だけでなく、復興した今の広島を見て、今当然だと思ってきたかもしれない平和の日々に意義を沢山の人に感じてもらえたらと思います。
  • 国際機関で平和活動をされている方々とお話をすることができて、自分の将来のことを考えるきっかけになりました。ジュネーブで会った人々がどうして核兵器廃絶、軍縮などの平和活動をするようになったのかや、今の世界の状況に対する意見を聞けて、日本の外にもこんなにたくさんの人々が平和を願って活動されているのがわかり、私たちもこれからもっといろいろなことに挑戦して、たくさんの人と繋がって協力していきたいと思いました。
  • ジュネーブへ行く前は、核兵器廃絶は本当に可能なのか、これから活動を続けても核兵器はこの世界からなくならないのではないか、と自分でも活動している際に疑ってしまうことがありました。しかし、ジュネーブで様々な人に会うことで本当に沢山の人が携わっていて、時間はかかるけれども、これからも活動を継続し、今まで以上に努力と交渉を続けていけば、核兵器廃絶の未来は必ず来るということを確信しました。
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