2020ビジョン総括

1 総論
 平和首長会議は、2003年10月に2020年までの核兵器廃絶を目指すことを行動指針にした「2020ビジョン(核兵器廃絶のための緊急行動)」【別紙1参照】(以下「ビジョン」という。)を打ち出し、被爆者の存命のうちに核兵器廃絶を実現するための取組を進めてきた。この取組は、2020年までの核兵器廃絶を実現するものにはならなかったが、「核兵器禁止条約」が発効するなど、廃絶に向けての一歩を確かなものとすることになった。

  この取組に併せて加盟都市の拡大に力を入れたことにより、平和首長会議は世界の8,000を超える都市からなる世界に広がる「平和都市のネットワーク」へと発展した。加盟都市の拡大は、「安全で活力のある都市の実現」という、より自治体の活動に直結する課題を共有し、幅広い分野で核兵器廃絶に向けての連携を進めるための基盤作りになっている。

  「ビジョン」は、これまでに国連の潘基文前事務総長を始め、欧州議会、全米市長会議(USCM)、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)、都市・自治体連合(UCLG)、全国市長会(日本)、日本非核宣言自治体協議会等、様々な団体からの支持表明をいただくとともに、高い評価を得て、全米市長会議においては2006年から15年連続で賛同決議が採択されている。

2 総合評価
 平和首長会議は「ビジョン」を踏まえ、国際世論の喚起に向け、これまで加盟都市やその市民、NGO等と連携しながら、被爆者の切実な思いを礎として核兵器廃絶に向けた様々な活動に取り組んできた【別紙1参照】。とりわけ国連における核軍縮等に係る会議などでは、国際社会における規範を形成する場であることから、機会を捉えて、市民による署名活動とともに、NGOや加盟都市の市民の連帯による粘り強い活動の実績を基にした平和首長会議としての考え方を積極的にアピールしてきた。そうした中で、国連で2017年7月に採択された「核兵器禁止条約」の策定過程では、平和首長会議として、「検証」などの重要項目に関しては、後刻追加して条文化できるようにすることで核保有国の参加を促すこととし、その旨を明らかにした条項を設けるよう提案を行い、それに沿って条文が策定されるということになった。同条約は、2020年10月に批准国が発効要件である50か国に到達し、今年1月22日には発効したことから、「ビジョン」に掲げた目標の4項目の内「『核兵器禁止条約』締結に向けた具体的交渉の開始」と「同条約の締結」の2項目については、実現を図ることができた。「核兵器禁止条約」の発効により、核兵器の生産・保有・使用・使用の威嚇などが国際法に反することが明確になり、核兵器に「悪の烙印」が押され、実際上「使いにくい」兵器となるという効果を生むことにはなるものの、核保有国は同条約を締結していないことから、核兵器の廃絶に向けての動きが直ちに始まるわけではない。

  「全ての核兵器の実戦配備の即時解除」と「全ての核兵器の解体」については、「ビジョン」策定当時に世界に16,500発程度存在した核兵器が、2020年時点で13,400発程度と減少したものの、達成を見通すことすらできず、核軍縮を巡る国際情勢は極めて厳しい状況にある。具体的には、核兵器不拡散条約(NPT)体制の下での核軍縮、とりわけ世界の核兵器の9割を保有する米国とロシアの核軍縮は協議すら停滞し、事態は後退している。また、核兵器をより「使いやすく」するための近代化や小型化も進められている。こうした状況に危機感を抱いた非核保有国と平和首長会議を始めとするNGOや市民社会のイニシアティブにより、2010年以降、それまで国家間の安全保障を中心に議論されていた核軍縮が、核兵器の非人道性を訴える「人道的アプローチ」を重視する中で議論されるようになり、「核兵器禁止条約」を生み出す源泉になり、そこに被爆者の声が色濃く反映される機会が生じることになった。

3 具体的な取組を通じて得られた成果
 「ビジョン」の下で具体的な取組を進める中で、平和首長会議は、組織面・活動面において自治体による国境を越えたネットワークとして充実の度を上げ、着実な成果を期待できる存在へと成長してきている。

  まず加盟都市数は、「ビジョン」策定時の2003年10月の107か国・地域の554都市から165か国・地域の7,974都市(2020年12月現在)と約14倍に拡大するという目覚ましい発展を遂げた。これは、平和を求める「ヒロシマ・ナガサキの心」を世界中に広め、国際社会が「ビジョン」の理念を受容するための基盤を拡大したことを意味する。

  加盟都市が増える中で、都市が抱える地域ごとの問題への主体的な取組を促すことで活動の活性化を図るべく、2017年に策定した現行動計画【別紙2参照】では、「安全で活力のある都市の実現」を新機軸として打ち出した。これは、市民の切なる願いという点において「核兵器のない世界の実現」と同根のものであり、平和首長会議は世界中の基礎自治体が連帯して地球規模の課題解消を目指すものであることを意味している。

  また、2010年代後半から力を入れてきている青少年「平和と交流」支援事業、加盟都市の若手職員の広島への受け入れ、子どもたちによる“平和なまち”絵画コンテストの実施など、各国において次代を担う青少年が平和活動に興味や関心を持つことを促すための活動は、加盟都市における平和活動への取組の持続可能性を高めるだけでなく、平和首長会議が将来にわたって、その「ビジョン」の実現に向け永続し続ける組織となるための基盤を固めていることを意味する。

4 今後の課題-次期ビジョンに向けて
 2021年8月に延期された第10回平和首長会議総会で次期ビジョンが討議・採択される予定であるが、中心となるのは行動計画の1本目の柱である「核兵器のない世界の実現」であることは言うまでもない。前述したとおり、核軍縮の動きが停滞する中で、「核兵器禁止条約」の発効は一点の光明と言えるが、今後この条約を実効性のあるものにしていくには多くの課題が残されている。まず、署名・批准国の拡大による国際社会における影響力の増大と、それに基づく核保有国とその同盟国の条約締結に向けて、条約の効果的な運用と発展に向けた議論への参画と締約国会議への参加を求める働き掛けが重要である。平和首長会議は既にこれを求める公開書簡の発出をしており、また、一年以内に開催される締約国会議にはオブザーバー参加をする方向で検討している。加えて、核兵器廃絶という最終目標を同じくする既存のNPTへの対応も重要である。今年の8月に延期されたNPT再検討会議においては、「他の誰にもこんな思いをさせてはならない」との被爆者の思いを改めて伝え、国際社会に対して核兵器廃絶を訴えていきたい。

  さらに、2019年11月の第11回平和首長会議理事会において、次期ビジョンには行動計画の2本目の柱である「安全で活力のある都市の実現」に加え、新たに「平和文化の振興」を3本目の柱とする方向で合意している。「平和文化の振興」は、今後一層重要となる平和意識の醸成と平和への取組が、市民社会に着実に定着するようにするために不可欠な取組であり、これは、為政者の核兵器廃絶に向けた政策転換を強力に後押しする潮流をつくることにつながる。平和首長会議は、今後とも加盟10,000都市を目指すとともに、核保有国やその同盟国も含む各国の加盟都市との緊密な連携の下で取組を強化し、実質的な核軍縮の進展と、さらにその先にある核兵器廃絶と恒久平和の実現に邁進することとする。

2021年1月 
平和首長会議


2020ビジョンの下でこれまで行った取組