広島平和文化センター 仮訳
「核戦争の瀬戸際から世界を引き戻し、核軍拡競争を停止・後退させるよう米国に求める」
2025年7月16日は、ニューメキシコ州アラモゴードで行われた最初の核実験「トリニティ」から80年の節目に当たる。また、8月6日と9日は、米国による広島・長崎への原爆投下から80年となる。
ウクライナ侵攻におけるロシアによる核の脅威は、核戦争の危険が現実かつ差し迫ったものであることを明らかにした。また、世界各地での緊張、特に台湾や南シナ海を巡る米中間の対立、朝鮮半島及び中東地域における慢性的な安全保障危機は、他の潜在的な核紛争の火種となっている。さらに、最近のインドとパキスタンの武力衝突は、核戦争の差し迫ったリスクが多面的かつ世界的なものであることを示している。
2024年8月、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は次のように述べた。「人類は今、刀の上に立たされている。核兵器が使用されるリスクは、冷戦以来かつてないほど高まっている。国々は質的な軍拡競争に乗り出しており、人工知能のような技術がその危険性をさらに増幅させている。核による脅しが再び行われ、一部の国々は無謀にも核による破滅をちらつかせている……。いま、軍縮が必要だ……。全ての国が行動を起こす必要があるが、核兵器国こそがその先頭に立たねばならない。」
1970年に発効した核不拡散条約(NPT)第6条は、NPT上の5核兵器国である米国、ロシア、英国、フランス、中国に対し、「核軍拡競争の早期の停止および核軍縮に関する効果的な措置について誠実に交渉を行う」義務を課している。
2025年4月から5月にかけて開催された核不拡散条約(NPT)締約国会議において、米国代表は次のように表明した。「米国は、第6条に含まれる軍縮に関する義務を含め、NPTの強力な支持者であり続けている。……私たちは、NPTを強化し、核兵器の拡散を防止し、そして最終的には核兵器の廃絶を追求することによって、集団的安全保障を前進させるためにここにいる。次のステップは明らかであり、その実現に向けて中国及びロシアと協力する必要がある。」
世界の軍事費は2024年に2兆7180億ドルに達し、そのうち米国は全体の37%を占め、次に多い9か国の合計を上回り、中国の3倍以上、ロシアのほぼ7倍に相当する支出となった。
数十年にわたり、政権の党派を問わず、軍やその支援体制(国土安全保障、退役軍人問題、提案されている2026年の核兵器の近代化を含む。)に充てられる連邦予算は、他の重要な連邦機関や社会サービスへの支出を犠牲にしてきたことがしばしばあった。
米議会予算局(CBO)は、米国が予定している戦略・戦術核兵器配備システムの運用、維持、及び近代化を実施した場合、これにかかる費用は2025年から2034年の期間で総額9460億ドル、年間平均で約950億ドルに達すると試算している。これは、2023年に出された2023年から2032年にかかる7560億ドルという見積額よりも、25%(1900億ドル)多い金額である。
平和首長会議は、広島市長及び長崎市長の主導の下、核兵器のない世界の実現、安全で活力のある都市の実現、そして平和文化の振興を目指して取り組んでおり、2025年5月1日時点で、加盟都市は166か国・地域の8,479都市に達し、そのうち米国の加盟都市は229に上る。
全米市長会議は、米国の平和首長会議加盟都市から提出された決議を、19年連続で採択しており、2024年には「核の危険が差し迫る時代にこそ対話を」と題する決議が採択された。
2025年2月13日の記者会見で、ドナルド・トランプ大統領は、状況が「落ち着けば」、ロシアや中国と非核化や軍事費削減について話し合う予定であると述べ、「私たちが新しい核兵器を作る理由はない。既にあまりにも多くの核兵器を保有しており、世界を50回、100回破壊できるほどだ」と語った。また、3月6日には記者団に対し、「全ての国が核兵器を廃棄すればよい。ロシアと米国は圧倒的に多くの核兵器を保有している。中国も4~5年以内に同等の量を持つだろう。みんなで非核化できればいいと思う。核兵器の力は途方もない。」と述べた。
上記を踏まえ、以下を決議する。まず、全米市長会議は、大統領に対し、核戦争の瀬戸際から世界を引き戻し、世界的な核軍拡競争を停止・後退させ、核戦争を防ぐために、国際的な取組を主導するよう求める。具体的には、ロシア及び中国を特に重視しつつ、他の8つの核保有国と誠実な交渉に取り組み、核兵器のさらなる増強を停止し、交渉によって合意されたスケジュールに従って核兵器を検証可能な形で削減・廃絶することを求める。さらに、全ての核保有国に対し核兵器の先制使用の放棄を求めること、大統領が単独で米国の核兵器の使用を命じる権限に対して効果的な抑制と均衡の仕組みを導入すること、冷戦時代の「ヘア・トリガー・アラート(即応態勢)」の解除、そして新たな核弾頭及び配備システムの製造・配備計画の中止、さらには核爆発実験に関する事実上の世界的モラトリアムを維持することを求める。
また、全米市長会議は、大統領に対し、核兵器により被害を受けた地域社会及び労働者を保護するため、過去及び現在の核兵器の実験、開発、生産、貯蔵、維持管理活動によって引き起こされた深刻な環境汚染の完全な除去を行うこと、そして核兵器の研究・実験・生産によって被害を受けた、また将来被害を受ける人々に対して、「放射線被曝補償法(Radiation Exposure Compensation Act)」の拡充を含め、健康調査、補償、医療支援を提供することを求める。
また、全米市長会議は、大統領に対し、核兵器の開発、実験、生産、管理、解体に従事する民間及び軍の労働者、並びに核兵器関連の研究所、生産施設、軍事基地に経済的に依存している地域社会のために、公正な経済転換を積極的に計画するよう求める。
また、全米市長会議は、連邦議会に対し、上記の要点を盛り込んだ H. Res 317「核戦争の瀬戸際から世界を引き戻し、核軍拡競争を停止・後退させるよう米国に求める」決議の可決を強く求める。
また、全米市長会議は、政権及び連邦議会に対し、軍事及び核兵器関連支出の増額を抑制し、コミュニティ開発一括補助金制度(Community Development Block Grant Program)や住宅投資パートナーシップ制度(HOME Investment Partnership Program)など、米国の都市にとって不可欠な諸制度への資金を回復させること、そして公共の安全確保の観点から公的医療保険メディケイド(Medicaid)を維持・強化することを求める。
また、全米市長会議は、全ての加盟都市に対し、平和首長会議に加盟し、同団体が目標とする10,000都市の加盟を後押しするよう求める。
提案者:
ウォータールー市長(アイオワ州)
ビーバートン市長(オレゴン州)
ニューオーリンズ市長(ルイジアナ州)
ダビューク市長(アイオワ州)
ハランデール・ビーチ市長(フロリダ州)
ロチェスター市長(ニューヨーク州)
ウェスト・サクラメント市長(カリフォルニア州)
バークレー市長(カリフォルニア州)
バーンズビル市長(ミネソタ州)
ロチェスター市長(ミネソタ州)
ランシング市長(ミシガン州)
アレンタウン市長(ペンシルベニア州)
マウンテンビュー市長(カリフォルニア州)
リバーサイド市長(カリフォルニア州)
ホールヨーク市長(マサチューセッツ州)
カレッジパーク市長(メリーランド州)