第11回NPT再検討会議第1回準備委員会に合わせて、高校生をオーストリア・ウィーン市に派遣しました。

2023年7~8月

オーストリア・ウィーン市で開催される第11回NPT再検討会議第1回準備委員会に、学校教育活動の一環として核兵器廃絶の実現に向けて様々な平和活動に取り組む広島の高校生を派遣し、準備委員会のサイドイベントとして開催する平和首長会議ユースフォーラムでの発表や意見交換、会議傍聴や国連関係者への署名の手交、地元の青少年との交流などを通じ、次代の平和活動を担う青少年の育成を図りました。

準備委員会開催地の国連ウィーン事務所で

高校生の派遣日程:2023年7月29日(土)~8月5日(土)

7月31日(月)

第11回NPT再検討会議第1回準備委員会のオープニング傍聴

中満国連事務次長兼軍縮担当上級代表は、開会挨拶で、冷戦以来、核兵器の使用リスクがこれほど高まったことはなく、同時にその使用を防止するための体制がこれほど脆弱であったことはない。前回決裂した失望感が未だに漂っているが、この再検討サイクルは、NPT体制を強化することで、国際的な平和と安全を強化する新たなチャンスでもあると激励されました。次に、ヴィーナネン第1回準備委員会議長が、NPTをグローバルな核軍縮と核拡散防止体制の基盤、そして国際的な平和と安全に不可欠な要素として強化するために、私たちは忍耐強く取り組む必要があり、誠実で率直な対話を通じて、相互に尊重する気持ちを持って行動すれば、この再検討サイクルの良い基礎を築くことができると述べられました。高校生は熱心にメモを取りながらこれらの演説を傍聴しました。

オープニング傍聴
中満国連事務次長兼軍縮担当上級代表への署名の手交及び面会

松井会長が広島の高校生の活動について紹介した後、高校生代表から中満国連事務次長に、「これは一筆一筆、核兵器廃絶を願う気持ちが込められた署名です。」と約4万4千筆分の「『核兵器禁止条約』の早期締結を求める署名」の目録を手交しました。中満国連事務次長は、被爆地広島の若い世代が核兵器をどう廃絶していくか真剣に考え、街頭に立って署名を集めるという実際の行動に移し、核軍縮にコミットしていることに勇気づけられたと述べられるとともに、若者には、恐れることなく活動を続け、自分たちの声をどんどん上げてほしいと激励されました。

中満上級代表(中央)と派遣高校生
準備委員会サイドイベント傍聴

準備委員会初日に、国連軍縮部主催の軍縮に携わる若者が自らの活動について発表するイベントと日本政府が主催する国際賢人会議のイベントの2件のサイドイベントを傍聴しました。いずれにおいても軍縮分野特有の用語が飛び交う専門性の高い議論が英語で繰り広げられる中、高校生は学びを深めようと懸命に耳を傾け、発言内容を書き留めていました。

国連軍縮部主催のイベントの様子
IAEA(国際原子力機関)視察

IAEAでヨーロッパ諸国への原子力技術提供を総括する山本プログラム・マネージメント・オフィサーから、核兵器の拡散防止に重大な役割を担う同機関の概要について説明を受けました。その後、質疑応答を挟みながら、国際公務員として第一線で活躍されている同氏の経歴や仕事に対する思いを聞いたり、オフィスの視察やインターンの方と面会する機会を得て、高校生にとって今後の進路を考える上でも大きな刺激となりました。

IAEA視察
軍縮・不拡散に係る交流、理解推進のためのレセプションへの出席

在ウィーン日本政府代表部大使公邸で開催されたレセプションに広島・長崎両市から派遣された若者やオーストリアの高校生が招待され、折り鶴やけん玉を通じた異文化交流を行い、親交を深めました。

レセプション参加者
(写真提供:在ウィーン国際機関日本政府代表部)

8月1日(火)

平和首長会議ユースフォーラムの開催

同準備委員会のサイドイベントとして開催した本フォーラムは、立ち見が出る盛況の中、広島及びウィーンの高校生を始めとする世界各国の若者8組が、核兵器廃絶と平和な世界の実現に向けて自らが取り組んでいる活動内容を発表し、活動を通じて感じた平和を希求する思いを共有しました。参加者からは、日本の若者の取組に感銘を受けた、ここに集った若者が連帯しネットワークを構築し、共に目標に向かって歩んでいきたいといった決意の言葉が聞かれました。フォーラムの最後には、中満国連事務次長から、次代を担い強い意志を持つ若者の皆さんには、国際関係や軍縮について深く学び、政府や外交官を突き動かすことができるような効果的な発信をする存在になってほしいと激励の言葉をいただきました。

オッタークリング区青少年との交流

ウィーン市オッタークリング行政区の副区長の案内により広島に所縁のあるモニュメントを見学した後、区庁舎の一室において現地の青少年と交流する場を設けていただきました。初めに派遣高校生の代表が自らが取り組む平和活動についてプレゼンテーションした後、双方の参加者が日本とオーストリアの教育制度や学校生活の違いをトピックとして英語で議論しました。互いに多くの違いに驚きながらも、共通の課題も見出され、より良い学校教育の在り方を生徒の視点から模索するための建設的で活発な議論が展開され、その中で青少年が親交を深めました。

現地の青少年との交流

8月2日(水)

第11回NPT再検討会議第1回準備委員会NGOセッション傍聴

高校生は、平和首長会議や被爆者団体を始めとする関係団体が準備委員会参加者に市民社会を代表して声を届けるNGOセッションを傍聴しました。松井会長は、鈴木副会長と共に平和首長会議の代表として発言し、G7広島サミットにおいて核保有国を含む各国首脳に「ヒロシマの心」を深く知っていただいたことに触れた上で、「核軍縮に関するG7広島ビジョン」を重く受け止め、今や破綻している核抑止論を放棄し、核兵器廃絶に向けた具体的な行動を開始する必要があることを訴えました。そして、平和首長会議が平和文化を振興し、為政者に対話を通じた外交政策を促す環境づくりを推進していく決意を表明し、今回の準備委員会の場における具体的な核軍縮・不拡散措置が進展することへの期待を述べてスピーチを結びました。

松井会長によるスピーチ
国連ガイドツアーへの参加

ガイドツアーでは、国連やIAEA・CTBTOなどの国際機関の概要について詳細な説明を受けました。高校生は、190を超える加盟国の代表が集い国際問題について話し合われる国連の舞台裏で、どんな人がどのように動きそれぞれの役割を果たしているのか、理解を深めることができました。また、広島・長崎の被爆資料が常設展示されているエリアの見学も叶い、自身とのつながりを異国の地で感じることができ、感銘を受けていました。

ガイドを受ける高校生
小笠原軍縮会議日本政府常駐代表との面会

小笠原大使は、軍縮交渉は、現在の取組が今後若い世代に影響するため、若い世代の声を発信することが重要だと認識しており、日本政府は軍縮会議の場で若い世代の声を聞こうとしていると表明されるとともに、面会に同席した高校生に対し、平和は一か国のみが享受するものではないとの認識を持ち、全く違う立場に置かれている人々の意見にもしっかり耳を傾ける姿勢を大切にして、今後も活動を継続してほしいと激励されました。高校生はこの機会を捉えて核兵器のない世界の実現に向けた日本政府の取組について具体な質問をするなど意欲的な姿勢で面会に臨み、小笠原大使からは質問に対する丁寧で詳細な回答をいただきました。

小笠原大使(中央)

8月3日(木)

市内視察

高校生は、公共交通機関を利用してシュテファン大聖堂、国立歌劇場、オーストリア国立図書館、美術史博物館、シェーンブルン宮殿などの名所を視察し、世界史の授業で得た知識を披露し合いながら歴史の舞台を回り見識を広めました。

国立図書館の視察

派遣高校生の感想

  • 平和な世界の実現に向けて活動する人が私たち以外にもたくさんいるということを実感し、今後の平和活動へのモチベーションを高めることにつながりました。新しい視点を取り入れ、より発展的な平和活動に取り組んでいきたいと思います。
  • 若者の社会を動かす力というのはとても小さいものだと思っていましたが、私たちと同じ世代の若者が自分たちで社会を変えていこうとする姿勢を見て、自分たちにも社会を動かし、変え得る力があると実感しました。私たちは、国を超えて協力できる、自国の利害だけでなく地球全体のために何ができるか考えることができる、そんな可能性を感じました。
  • 面会でかけていただいた「対立する意見をもつ相手の言葉こそ聞くべきだ」という言葉が特に心に残りました。自分の考えとは異なる意見を聞かなければ溝は埋まらず、目標としている核兵器廃絶も実現できません。この事業に参加して、特に「自分たちのこれからの平和活動」に欠けていたものに気づくことができました。様々な学びを得ることのできた今回の経験を活かして次の活動につなげていきたいと思います。
  • 今回の派遣の中で、様々な国の人たちが自分たちにしかできないことを見つけ、より良い未来をつくろうと努力する姿を見ました。これらはどれも一国のみによって成り立つようなものではなく、違う国の人たちが互いを尊重し合い協力して一つのことに取り組むことで成り立っていました。こういった活動の果てに“平和で明るい世界”というものがあるのだと思いました。
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