NPT再検討会議での長崎・広島両市長のスピーチ
2005年5月4日 ニューヨーク国連本部 本会議場にて

長崎市長スピーチ(抜粋)
皆さん、この写真をご覧ください。これが原爆がもたらした現実です。地上に横たわる黒焦げの少年です。この少年にいったい何の罪があったのでしょうか。長崎原爆の被害は死者7万4千人。負傷者7万5千人。かろうじて生き延びた人々も心と身体に癒すことのできない傷を負い、今なお苦しみ続けているのです。
核兵器は、無差別・大量殺りく兵器であり、しかも後々までも原爆後障害によって人間を苦しめ続ける非人道兵器の最たるものです。皆さん、このような惨劇が自分たちの身の上に起こることを想像してみてください。私はいかなる理由があってもこのような核兵器の存在を許しません私たち長崎市民は、このような惨劇を二度と繰り返してはならない、長崎を最後の被爆地にしなければならないとの強い思いで、核兵器の廃絶と世界恒久平和の実現を世界に向けて訴え続けています。
長崎では、高校生を中心に、原爆を知らない若い世代が平和について考え、核兵器廃絶へ向け自発的に平和運動に取り組んでいます。彼らの運動は、私たちの大きな希望です。私は、若い世代のこのような活動が、大きなうねりとなって世界に広がることを期待しています。
世界には、今なお自国の安全のために核兵器が必要だと考えている人がいることを、私は大変残念に思います。しかし、世界中の市民は核兵器と人類は共存できないことに気付いています。
今回、この会議のため核兵器廃絶を願う世界中の市長、NGO、被爆者、研究者、マスコミの人々が大勢ニューヨークに来ています。彼らの声に耳を傾けてください。皆様方の賢明なる判断によって、このNPT再検討会議が、核兵器廃絶の具体的な道筋を示す会議となることを心から願っています。

広島市長スピーチ(抜粋)
ここに、ある被爆者の中指から落ちた、非常に分厚く、変形した黒い爪があります。黒い爪はひび割れ、ご覧のとおり折れ曲がって伸び、皮膚に食い込み、ある一定の長さに達した後に剥がれ落ちます。この爪は、被爆者が60年間にわたって苦闘し続けてきた、残虐で、終わりなき、得体の知れない苦しみを雄弁に物語るシンボルです。爪には、他の誰にも同じ苦しみを味わわせてはならないという被爆者のメッセージが体現されています。この爪のどす黒い色と異常な成長が、1945年以来私たちが歩んできた方向を物語っているからです。それは、人類絶滅への道です。
本日、私はこの再検討会議に参加している100人の市長及び都市代表、並びに平和市長会議会員たる1000人以上の市長を代表して発言いたします。また、私たちの2020ビジョンに賛同して自ら署名した数百人の市長を代弁します。2020ビジョンを公式に支持した全米市長会議、全米黒人市長会議、欧州議会を代弁します。先日の世論調査で核兵器廃絶を希望すると答えた66%のアメリカ人を代弁します。私たちは核の現状維持をもはや容認しないと私が発言するとき、実際、私は世界の圧倒的多数の国々、都市、人類を代弁しているのです。多数の意思が尊重されるべき時がきているのです。
広島と長崎が、核による絶滅の悪魔を拒否するよう、頼るものもなく世界に懇願していた時代は終わりました。私たちはただ演説をして、席に戻り、私たちが軽視されて世界がゆっくりと確実に破滅に向かうのを見ていることには満足しません。私たちは、核の大惨事を防ぎ、民主主義を守るために、可能なあらゆる非暴力の手段を行使します。そして、あらゆる場所の人々がこれに応えると確信しています。
私たちは本当に子供たちや孫たちの将来を案じているのです。彼らの代わりに、私たちは皆様の外交的役割や政治的経歴の先を見ることを要請します。今月、私たちの目の前に、人類の救い手となるまれな機会があります。私たちを失望させないでください。