全米市長会議(USCM)が平和首長会議の活動に対する賛同決議を採択しました。

2018年6月11日[第86回全米市長会議年次総会(米国・マサチューセッツ州ボストン市)]

広島平和文化センター 仮訳
原文は英語(こちらから)

米国政府と連邦議会に対し、瀬戸際から引き返し、核戦争を防止するために国際的なリーダーシップを発揮することを求める決議

2018年1月25日、米国の科学誌「原子力科学者会報」は、人類滅亡までの残り時間を象徴的に示す終末時計の針を残り2分にまで進めた。これにより、1947年のスタート以来、時計の針は最も深夜に近づいたことになる。同誌は、「世界の指導者が、迫り来る核戦争や気候変動の脅威に対し効果的措置をとらなかったことにより、世界の安全保障環境は1年前よりも危険性が増した。これほど危険が高まったのは第二次世界大戦以来」との声明を発表している。

現存する15,000発近くの核兵器のほとんどは広島・長崎に投下されたものとは桁違いの威力を持っており、米国とロシアがその92%を保有している。そして、それらは人類と地球環境に容認しがたい脅威を突き付けている。

米ロ間の緊張は冷戦終結後最悪のレベルにまで高まっており、この二つの核超大国は、ウクライナ、東ヨーロッパ、シリアにおいて対立を深め、通常兵器・核兵器使用を想定した軍事演習を双方が頻繁に実施している。バルト地域・シリアにおいてロシア軍と米国・NATO軍が異常接近する件数も飛躍的に増加している。

こうしたことは、核戦争を勃発させる多くの導火線のひとつに過ぎず、朝鮮半島、南シナ海、中東、南アジア等の地域における今後の展開が予測不能な紛争に核保有国がからんでおり、コントロールできない大惨事に発展しかねない状況である。

1月19日、米国政府は、2018年の「国家防衛戦略」を発表し、その中で「対テロ戦争」よりも「大国同士の競争」を優先事項に掲げることとし、ロシアと中国を戦略上の競争相手と位置づけた。

また、2月2日に発表された「核態勢見直し(NPR)」では、同政権が核兵器への依存度を増大させるとともに、その依存を長期にわたり維持する方針が示されており、「戦略的非核攻撃」に対抗する核兵器の役割を強調することで、核兵器使用のハードルを下げている。また、潜水艦搭載用の低出力核弾頭の開発、海洋発射型の核巡航ミサイルの開発、既存の空中発射巡航ミサイルに代わる、より探知されにくく、性能の高いバージョンの開発も打ち出している。さらに、既存の核戦力の維持及び増強が計画されているが、これには今後30年間で1兆ドル以上の経費が必要となる見込みである。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は3月1日、ロシア連邦議会に向けて行った年次教書演説において、原子力による巡航ミサイルや水中ドローンなど、一連の新たな核兵器運搬システムについての詳細を発表した。

中国、フランス、英国、インド、パキスタンも核兵器の近代化を進めている。

2017年、米国は軍事費として6,100億ドルを費やした。これは中国・ロシアの軍事費を合計した額の2.5倍を上回る額であり、世界の軍事費の35%を占める。

連邦議会は、国防予算として2018会計年度は7,000億ドル、2019会計年度は7,160億ドルを承認した。

平和首長会議は、世界恒久平和への道筋として、「核兵器のない世界」と「安全で活力のある都市の実現」の二つの目標を掲げ、取組を進めている。その加盟都市数は米国の213都市を含む163か国・地域の7,578都市に達しており、その総人口は10億人を超える。

全米市長会議は、13年連続で平和首長会議の取組に賛同する決議を全会一致で採択しており、2017年6月26日には核兵器禁止条約に関する交渉を支持するよう求める決議を採択している。

広島市長、長崎市長、デモイン市長は、平和首長会議を代表し、国連で開催された核兵器禁止条約の交渉会議に参加した。

米国・ロシアほか、核保有国は参加しなかったものの、2017年7月7日、賛成122・反対1の賛成多数で、核兵器の保有、開発、実験、使用、使用の威嚇などを禁止する歴史的な条約が採択された。

2017年9月20日から署名が開始されたこの核兵器禁止条約は、50か国が批准した後に発効する。

上記を踏まえ、全米市長会議は、以下を決議する。まず、全米市長会議は、米国政府と連邦議会に対し、瀬戸際から引き返し、核戦争を防止するためにグローバルなリーダーシップを発揮するよう要請する。

また、全米市長会議は、米国政府に対し、中距離核戦力(INF)全廃条約に対する支持の再確認、新戦略兵器削減条約(新START)延長交渉の開始を含むロシアとの緊密な外交努力により、核兵器をめぐる緊張緩和の推進を急務とするよう要請する。

また、全米市長会議は、米国・北朝鮮間の交渉開始に期待を寄せるとともに、トランプ大統領に対し、朝鮮戦争の正式な終結と、朝鮮半島の非核化に伴う国交正常化を目指して、北朝鮮・韓国と粘り強く、真摯に交渉するよう要請する。

また、全米市長会議は、2015年、経済制裁緩和と引き換えにイランの原子力活動に制約をかけるという内容でイランと米国ほか5か国の間で結ばれた核問題に関する包括的共同作業計画(JCPOA)の重要性と有効性を改めて確認する。また、米国政府に対し、中東地域から核兵器・化学兵器・生物兵器の脅威をなくすことを目標に、イランとの外交を推進し、関係正常化に努めることを要請する。

また、全米市長会議は、米国ほか7つの核保有国が、米国の傘の下にあるほぼ全ての国々とともに核兵器禁止条約の交渉会議をボイコットし、条約採択を問う投票の後、米・仏・英の3か国が同条約への署名や批准、締結をするつもりはないとの共同声明を発出したことに対し、深い遺憾の意を表明する。

また、全米市長会議は、米国政府に対し、核兵器禁止条約についての方針を転換し、同条約を核兵器のない世界の実現と恒久的な維持に関する包括的な合意締結に向けた重要な一歩と位置づけて支持することを要請する。

また、全米市長会議は、米国政府に対し、以下を要請する。核兵器の先制使用政策を放棄することにより、核戦争を防止するための世界的な取組を主導すること。現在大統領にのみ付与されている、誰からもチェックを受けることなく核攻撃を命令できる権限をなくすこと。米国が保有する核兵器の即時発射警戒態勢を解除すること。現在保有する核兵器を、機能強化されたものに入れ替える計画を中止すること。核兵器廃絶に向けた検証可能な合意形成に核保有国間で積極的に取り組むこと。

また、全米市長会議は、大統領並びに連邦議会に対し、国家予算における優先順位を見直し、現在核兵器に充てられている予算及び根拠のない軍事関連予算を、安全で活力のある都市づくりのために配分することを要請する。具体的には、「コミュニティ開発包括補助金制度」と「アメリカ合衆国環境保護庁」への充分な助成、気候変動への対応、崩壊しつつあるインフラの建て直しによる雇用創出、教育、環境保護、食料や住宅の確保、医療といった基本的なサービスのための支援などである。

また、全米市長会議は、米国の全ての市長に対し、2020年までに10,000都市加盟を目指している平和首長会議に加盟するよう要請する。また、既加盟都市に対しては、核保有国間で増大しつつある戦争の危険性について、そして核兵器の人道的影響・財政上のコストについて、さらには世界の核兵器廃絶交渉に米国が誠意を持って対応することが早急に求められていることについて、都市レベルで市民の意識啓発を行うよう呼び掛ける。

提案者:

デモイン市長(アイオワ州)

共同提案者:

コロンビア市長(サウスカロライナ州)
デイトン市長(オハイオ州)
ダビューク市長(アイオワ州)
ロチェスター市長(ミネソタ州)
ホールヨーク市長(マサチューセッツ州)
マディソン市長(ウィスコンシン州)
ウエストパームビーチ市長(フロリダ州)
ペンブローク・パインズ市長(フロリダ州)
イーストン市長(ペンシルベニア州)
トーランス市長(カリフォルニア州)
カレッジパーク市長(メリーランド)
ノーマル市長(イリノイ州)
ウエストサクラメント市長(カリフォルニア州)
フィンドレー市長(オハイオ州)
ホノルル市長(ハワイ州)
ニューヘブン市長(コネチカット州)
サンタ・モニカ市長(カリフォルニア州)
リトル・ロック市長(アーカンソー州)
カーメル市長(インディアナ州)
ニューベッドフォード市長(マサチューセッツ州)
エリザベス市長(ニュージャージー州)
ブルーミントン市長(イリノイ州)
ウォキーガン市長(イリノイ州)
キンストン市長(ノースカロライナ州)
ビーバートン市長(オレゴン州)