ゲルニカ空爆70周年記念式典でのスピーチ(仮訳 原文は英語)

2007年4月26日[スペイン ゲルニカ・ルモ市]

平和市長会議会長・広島市長 秋葉忠利

本日、ここゲルニカ-ルモ市において、「ゲルニカ空爆70周年記念式典」が開催されるにあたり、人類史上最初の被爆都市ヒロシマを代表し、ご挨拶申し上げます。まず初めに私をこのような意義ある式典にご招待いただき、主催者の皆さまはもとより、本年1月にお忙しい中、広島を訪問してくださったアラナス市長に改めてお礼申し上げます。

スペイン内戦中の1937年4月26日、ドイツ軍の攻撃によりゲルニカ市の市民、1600名以上が亡くなり、900名以上が負傷しました。史上初めての都市無差別攻撃が行われたのです。ゲルニカと同様に戦争の惨禍を経験したヒロシマは、ゲルニカの存在を重く受け止めてきました。

人類は、時に力強く、かつ協力関係を保ちながら平和の実現に向けた具体的な形を示そうとしてきました。第一次世界大戦後、国際連盟や、戦争に適用される幾多の法やタブーが生まれました。この中で、最も重要なものは、戦時中であっても、文民や非戦闘員を攻撃したり殺したりすることを禁止したことです。しかしながら、20世紀の後半は、こうしたタブーの多くが破られてきました。ゲルニカは出発点となり、広島は究極の象徴となりました。私たちは、次世代にゲルニカから始まった恐怖の歴史を伝える方法を見つけなければなりません。

広島は1945年8月6日、一発の原子爆弾の投下により、全市街地が焦土と化し、その年の末までに約14万人におよぶ尊い命が失われました。戦後60年以上が経過した現在でも多くの被爆者は放射線による後障害に苦しみ続けています。原爆の恐ろしさを体験した広島市民は、その苦しみや悲しみを乗り越え、復讐や敵対という人類滅亡につながる道ではなく、「他の誰にもこんな思いをさせてはならない」という和解の道を選択し、核兵器の廃絶と世界恒久平和の実現を訴え続けてきました。

1982年、広島・長崎両市は、平和市長会議を設立しました。以来、世界中の都市に加盟を呼びかけており、現在120か国・地域から1608都市が加盟しております。しかしこうした成功にもかかわらず、国際社会は、今、非常に重大な危機に直面しています。拡散の危険性、更には実際の核兵器使用の可能性が高まっており、核廃絶に向けた唯一の国際合意であるNPT(核不拡散防止条約)は崩壊の危機にあります。

核兵器が再度使用されれば、都市は攻撃の矢面に立つことになりますが、我々市長には、市民を守る責任があります。そのため、平和市長会議では加盟都市の市長と共に核兵器廃絶のための緊急行動を行っています。2020ビジョンとも呼ばれるこの取組みは、2020年までに核兵器のない世界を実現することを目的としています。

国際司法裁判所の「核兵器の使用・威嚇は一般的に国際法に反する」との勧告的意見から、10年が経ちました。その意見の中で判事たちは全会一致で「全ての国家には、全ての局面において核軍縮につながる交渉を、誠実に行い完了させる義務がある」と述べています。この勧告的意見に注目し、平和市長会議は全ての政府関係者や市民に対し、核軍縮に向けた誠実な交渉を速やかに開始するよう求める、「Good Faith Challenge(誠実な交渉義務推進キャンペーン)」を立ち上げました。都市ネットワークである平和市長会議は、「CANT(都市を攻撃目標にするなプロジェクト)」も展開しています。これは、全ての都市に対し、核保有国からその都市が核攻撃の攻撃目標となっておらず、今後もならないよう公式に保証を求めるよう呼びかけています。事実、私たちは、いかなる都市または人が住んでいる場所を攻撃することは、違法かつ非人道的であると主張しています。

また、日本を発つ前、非常に不幸で衝撃的な出来事がありました。皆さま、ご存知かもしれませんが、長崎市の伊藤一長市長が凶弾に倒れたのです。私たちは、いつどのようにこうした暴力に終止符を打つのでしょうか。すべての市民、都市、国家がすべての暴力、戦争、核兵器をなくすよう取り組んでいかなければなりません。

ゲルニカ空爆及び広島・長崎の被爆の実相が示すように、ひとたび戦争が起これば、被害を受けるのは都市であり、そこに暮らす市民です。人類の未来を決定するのは、この地球に生きる一人ひとりの市民であり、核兵器廃絶と世界恒久平和を実現するための原動力は国際世論の盛り上がりです。平和は圧倒的多数の人類の願いであり、共に努力することにより、平和な世界を実現する力を持っているのです。

このたび平和を願う当地の皆様方のリーダーシップにより、当記念式典が開催されますことは誠に意義深いことであり、戦争の惨禍を共に経験した都市が連帯し、人類共通の目標である戦争のない世界の実現に向け、良識ある市民が共に手を携えることの重要性を世界に向けて発信する場となることを心から期待しています。

終わりに、当式典主催者の皆様方に改めて敬意を表しますとともに、ご参列の皆様のご健勝を祈念し、ごあいさつとさせていただきます。