開設大学とシラバス

新潟大学 平和を考えるA
Lecture about peace with some viewpoint A

1 年度

2020年度

2 科目名

平和を考えるA/Lecture about peace with some viewpoint A

3 担当教員

藤石 貴代, 吉田 治代, 松井 克浩, 渡邊 登, 橋本 博文

4 対象学年

1 , 2 , 3 , 4 , 5 , 6

5 開講学期

第1, 2ターム

6 単位

2

7 授業形態

講義

8 科目区分

新潟大学個性化科目 自由主題

9 副専攻

なし

10 定員

150

11 分野

75:新潟大学個性化科目

12 水準

03:全学学生受入可・大学基礎水準

13 実務経験を有する教員が実施する科目

 

14 対象学部等

全学部

15 聴講指定等

特になし

科目の概要(Course Outline)

2015年9月19日未明、いわゆる「安全保障関連法案」(自衛隊法、周辺事態法、武力攻撃事態法、PKO協力法など)が法律ごとに個別に採決されることなく、まとめて参議院で可決されました。これにより、日本と「密接な関係にある外国に対して武力攻撃」があった場合に(日本が攻撃を受けていなくとも)、自衛隊の海外での武力行使が可能になりました(憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認)。既に2004年の自衛隊イラク派遣時に日本人1名が殺害されました。「非戦闘地域」に派遣されたはずの自衛官が「テロの脅威」にさらされた結果、派遣中・帰国後に20名以上が自殺しています。(「インタビュー イラク派遣のストレス 元自衛隊中央病院精神科部長・福間詳さん」『朝日新聞』2015年7月17日17面 「PKO、伏せられた被害 南スーダン、陸自内部文書」『朝日新聞』2018月9月2日27面) 2015年1月には日本人2名が殺害されました。日本政府の「対テロ戦争」追随が、国内外で日本国民・住民を危険にさらすものであることは明らかです。

戦争は、人が人として人らしく暮らすこと(生活)も、生きること(人間性)も徹底的に破壊します。戦争は自然災害のように「起きる」ものはでなく、誰かが何らかの目的のために「起こす」ものです。国家が「国民」や「国益」を守るというなら、戦争を起こさ(せ)ないことこそ、最善の方策です。平和学では、ヨハン・ガルトゥング(1930-)によって、「平和」とは暴力のない状態であり、戦争のような「直接的暴力」のみならず、不公正・不公平な社会構造による貧困,飢餓、差別、抑圧、疎外といった「構造的暴力」のない状態が「積極的平和(positive peace)」であると定義されています。したがって、日本の現政権が進める「積極的平和主義(proactive contribution to peace)」は、まったく「平和」に貢献しません。

地震と原発がひしめく狭い日本で、「戦争できる国づくり」のために、たとえば「武器輸出」が「防衛装備移転」と言い換えられ、産官学共同の軍事研究が、原子力(核)と同様、国策として進められています。しかし、新潟大学では、「軍事への寄与を目的とする研究は,行わない。」と言明しています(「新潟大学の科学者行動規範・科学者の行動指針」)。日本国民はかつて、広島と長崎に原爆を落とされるまで(死者20万人以上)戦争をやめることができませんでした。また、戦死者の多くは、無謀な作戦でアジア・太平洋地域に置き去りにされた餓死者や病死者でした。現代日本に生きる私たちが特攻隊の若者の死に同情・感動するならば、同時に、大勢の未来ある若者たちを死なせるような戦争を起こし、そのような作戦を遂行した指導者の責任を問わなくてはなりません。私たち一人ひとりが「お上におまかせ民主主義」のままでは、国と国民を存亡の危機に陥れる国家運営が再び繰り返されるかも知れません。

国民生活の「安心」「安全」が損なわれているのは、「テロの脅威」によるものばかりではありません。非正規雇用の増大が所得と教育の格差による貧困の連鎖を生み、福島第1原子力発電所の放射能漏れ事故もまったく収束していません。国内外で起きる諸問題について、「知らない」「分からない」と目を背け、「考えない」で生きていける時代ではなくなりました。人の生命・生活に悲惨な影響を及ぼす戦争も公害も(自然災害ではなく)人災です。それにより、近代日本が国内外にどれだけの死傷者をもたらしたのか、そして、その犠牲の上に現代日本が成り立ち、今でも人々に犠牲を強い続けている現実を見れば、まさに「歴史は繰り返す」ことが分かります。老若男女、健常者も障がい者も、いかなる階層に属する人であっても、人が人として人らしく生きられる「持続可能な社会」を築くことが、これからの「平和」の実現と言えるでしょう。新潟には「原発」も「水俣病」も「拉致」問題もあるからこそ、新潟からアジアと世界の問題を考えてみます。なお、本科目は、新潟水俣病の患者支援や、原発避難指示区域等での復興支援の経験を有するゲストスピーカーを招いて、授業を行います。

科目のねらい(Course Objectives)

「平和学を学ぶのに特別な準備はいらない。予備知識もとくに要求されない。共感に基づいた他者への関心—おそらくこれがいちばん必要なことだ(中略-引用者)社会の現実に目をひらく。先入観や偏見を洗いなおす。お互いの関係性をとらえる。関心をもちつづけ、顔の見える交流をかさねる。問題の背景や構造の把握を試みる。こうしたコミットメント(自己投入)をとおし、手応えのある世界理解を自分のものとして獲得する。グローバリゼーションや開発主義を相対化する批判的視点をもつ」(「はしがき」『新・平和学の現在』法律文化社、2009年、ⅰ頁)ことを、この授業でも目指します。

学習の到達目標(Specific Learning Objectives)

戦後74年間の日本国内の平和と繁栄は、大日本帝国が国策として引き起こした戦争により傷つき、亡くなった他国民(民族)・自国民の膨大な犠牲の上に成立していることを知ること。現代を生きる私たちには、戦争や公害の筆舌に尽くしがたい悲惨な実態を学び、同じ過ちを二度と繰り返さないために「記憶の義務」があることを理解し、実践すること。平和について自主的に学習する動機づけを得ること。講義で得た知識や考えを「自分事」として捉えるとともに、他者に対して論理的に発表・説明できるようになること。

登録のための条件(注意)(Prerequisites)

平和とは何か、そしてその実現について、真剣に真摯に考える姿勢を持っていること。新潟大学課題別副専攻「平和学」履修者を除き、「平和を考えるB」「平和を考える in 新潟」のいずれかを既に聴講済の学生は、重複して受講できません。

授業実施形態について(Study Advice)

各講師の講義内容は、現代日本社会の様々な側面からの問題提起です。テレビやインターネットに流れる「情報」のように「他人事」として通り過ぎず、「もし自分(や自分にとって大切な人)がそうだったら」と常に自分の身に置き換えて想像しながら聞き、考えてみることが大切です。毎日の生活で気になるニュースについては、新聞も(できれば2紙以上)読んでください。

成績評価の方法と基準(Grading Criteria)

すべての講師の授業に出席し、全体で2/3以上の出席が必須条件。期末レポートを課す。レポートの成績評価(50%)とミニレポート・討論参加等の平素の学習態度(50%)で評価する。

使用テキスト(Textbooks)

各授業担当教員によるプリント資料配布。

参考文献(References)

V・E・フランクル(池田香代子訳)『夜と霧(新版)』(みすず書房、2002年)
十菱駿武ほか編『しらべる戦争遺跡の事典』(柏書房、2002-2003年)
フランク・パヴロフほか(藤本一勇訳)『茶色の朝』(大月書店、2003年)
岡本三夫ほか編『新・平和学の現在』(法律文化社、2009年)
赤井純治『地球を見つめる「平和学」―「石の科学」から見えるもの』(新日本出版社、2014年)
加藤直樹『九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響』(ころから、2014年)
木村 真三『放射線汚染地図の今』(講談社、2014年)
新潟水俣病安田患者の会『あがの岸辺にて(復刻版)』(冥土のみやげ企画、2016年)
渡邊登『「核」と対峙する地域社会:巻町から柏崎刈羽、そして韓国へ』(リベルタ出版、2017年)
松井克浩『故郷喪失と再生への時間―新潟県への原発避難と支援の社会学』(東信堂、2017年)
阿倍岳『ルポ 沖縄 国家の暴力 現場記者が見た「高江165日」の真実』(朝日新聞出版、2017年)
佐々木寛『市民政治の育てかた: 新潟が吹かせたデモクラシーの風』(大月書店、2017年)
永野三智『みな、やっとの思いで坂をのぼる—水俣病患者相談のいま』(ころから、2018年)
山本晴太ほか『徴用工裁判と日韓請求権協定: 韓国大法院判決を読み解く』(現代人文社、 2019年)
ほか、各授業担当教員が適宜紹介する。

キーワード

★(実務経験を有するゲストスピーカー)

備考(Remarks)

聴講については、第1回授業時に聴講希望理由を提出し、これをもとに抽選により許可する。ただし、特別な事由(何度も抽選漏れした、聴講希望理由に見られる熱意など)により若干数の追加を考慮する。聴講希望者は必ず第1回目の授業に出席すること。

授業計画詳細情報

    内容(Content)

    第1ターム(4/8~6/3)

    第1回: ガイダンスと問題提起

    第2回: 「平和」を死語にしない:新潟から朝鮮半島へ(1)

    第3回: 同上(2)

    第4回: 災害社会学から平和を考える

    第5回: 3.11後を生きる私たち

    第6回: グループ討論(1)

    第7回: 広島・長崎、被爆の実相

    第8回: 新潟水俣病は終わっていない

    第2ターム(6月10日~8月5日)

    第9回: 新潟水俣病と福島第一原発事故

    第10回: 第一次世界大戦とその戦後〜ドイツの事例から平和を考える

    第11回: 戦争遺物の語る平和と戦争(1)

    第12回: 同上(2)

    第13回: 同上(3)

    第14回: 映画「阿賀に生きる」(監督:佐藤真1992)

    第15回: 映画「阿賀に生きる」(続)

    第16回: グループ討論(2)

準備学習(Preparing learning)

人は「事実よりも好みの情報」(『日本経済新聞』2017年1月26日(木)9面)に偏りやすく,SNSがその傾向に拍車をかけているという。「事実」は多面的であることを常に意識しながら,「情報」を比較し,真偽を判断する「疑いの目」を持つよう心がけてください。

第1回:シラバス内容をよく読み、必ず出席すること。

第2-3回:新聞の「国際」ニュースを読む

第4-5回:「フクシマ」の現状を注視する

第6回:「日本国憲法」全文を読む

第7回:「ヒロシマ」「ナガサキ」に関わる平和学習について調べる

第8-9回:新潟水俣病・福島第一原発事故の被害について新聞記事を読む

第10回:「ドイツ連邦共和国大使館・総領事館」H.P.「過ぎ去っても忘れ去ることはない」(トピックス)を読む

第11-13回:新潟市内の戦争遺物・戦争遺跡を調べる

第14-15回:「公害資料館ネットワーク」H.P.(http://kougai.info/museum/94)新潟県福祉保健部生活衛生課「新潟水俣病学習のための資料」(環境と人間のふれあい館)(https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/seikatueisei/1356815355969.html)など閲覧する

第16回:「貧困」「差別」「戦争」「環境破壊」が続く理由を考える

リンク

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